天空の結婚式ウェディングフライト

2019年1月11日、晴天のフライト日和に名古屋(小牧)空港を飛び立ったのは、末広がりの縁起の良いナンバーを掲げたFDA8888便。FDA、そして名古屋空港が一丸となってトライしたウエディングフライト、その実現秘話を携わった社員にインタビューしました。

左から
コーディネート/石井 俊(FDAチャーター事業部)
新郎/松島 英祐(FDAチャーター事業部)
機長/滝浪 啓一郎 
客室乗務員/北岡 麻季

「チャーター便で何ができるか―」。チャーター事業部に在籍し、その活用を模索している中で、漠然と「移動手段だけではない飛行機の使い方はもっと大きな可能性がある」と思っていました。そしていざ、自分が結婚という節目を迎えた時、周りの「結婚式、飛行機でやってみたら?」という声も上がっていたので妻に聞いてみたんです。妻は、元FDA社員だったので「やだ、恥ずかしい」と言うかと思ったら、まんざらでもなかった。そして、どんどん話が進んでいって……。自分としては、恥ずかしいという思いがあったのですが、周りが話を固めていき、あれよあれよとウエディングフライトを行うことになりました。頭を切り替えて、自分たちができることの検証と全力を出したときのFDAの底力の発表会だと考えました。自分の仕事もプライベートも兼ねた晴れの舞台(発表会)だと思い覚悟を決め、恥も外聞もなく全力で取り組みました。恥ずかしがっていちゃだめだ、そう思いました。

今回のウエディングフライトに向け、全部署から集まってチームを組み、社が一丸となって取り組むトライアルとなりました。また、空港を〝結婚式場〟と見立てるということで、名古屋空港にも全面的な協力をいただくことに。これは大きな経験となりました。おそらく名古屋空港でこのようなことを行ったことはないと思います。名古屋空港とFDAが一つになって取り組んだ、何もかもが初めてのトライアルでした。

ウエディングフライトを行う上で、何が可能で何が不可能なのかを探りたかったので、世間一般でいう〝結婚式〟でやることは全てやってみようとプランを練りました。新郎新婦の入場から始まり、聖書の朗読、指輪の交換、讃美歌、など、結婚式に必要な〝行事〟はもちろん、披露宴としての挨拶や乾杯、食事なども盛り込みました。中でも、FDAチャーター事業部の人間として私個人が特に追求したかったのが食事の提供でした。これまでFDAでは、お客様や旅行会社がお弁当などを持ち込んでお食事をされることはあっても、自分たちが食事を積み込んで客室乗務員がお客様にサーブするという本格的な食事サービスはほぼなかったんです。本番の結婚式でもありますし、ぜひ質の高い、参加者全員が満足できる一連のサービスを実現したいと思いました。

当社としては初めての企画だったため、まずは新郎新婦のやりたいことを、できるかできないかは別として全て聞くことから始めました。それを会議の場で各部署に確認しながら、そしてみんなで知恵を出し合いながら、一つひとつつぶしていく作業を行いました。
限られた飛行時間で結婚式と披露宴のプログラムを続けてこなさなければならず、例えば食事やドリンクを手早くサーブしなければならない、その際、どのようなスタイルだと配りやすいのか……。そもそも、地方を主な路線とするFDAの小型機材に、どれだけのお食事や飲み物を積むことができるのか……。

まずは、どれくらいのカートが搭載できるのか・何人前の食事とドリンクを積むことができるのかを調べたところ、思いのほか積めることが分かりました。しかし、機内食用ミールカートの引き出しには高さ制限があります。空港部門と話合いながら、引き出しに入るミールボックスの大きさを検討し、ちょどよい箱を探したり、客室乗務員からグラスなどの食器について意見をもらうなど、各部署の知識や意見をまとめていきました。

今回実施した名古屋(小牧)空港には、機内食工場がありません。そのため食事の内容は、新郎新婦のリクエストに応えてもらえる市中のケータリング業者を見つけ、予算内でメニューを調整し、選んだミールボックスを持ち込んで料理を詰めてもらうことに。こうして、手探りではありますが、FDAで初の食事提供を実現しました。

厳しい予算だけを提示して、基本は石井のセンスに任せました。すごく良い業者を見つけ、交渉してくれ、そのおかげでとても美味しい食事をゲストの方々に食べていただくことができました。

残念ながら実現できなかったことは、通路に花を飾ること(整備・安全上の問題)、温かいミールを提供すること(限られたオーブンの数から80名分を一度に提供できない)でした。

空港も結婚式場と見立てて装飾を施しました。旅行会社用の団体カウンターを利用させてもらい受付を設け、女性社員が飾り付け。ウェルカムボードなども設置しました。

また、コンコースの一区画を自由に飾り付けしてよいという許可を空港からもらい、バルーンや造花で装飾し、ゲストのみなさんの高揚感を高める演出を行いました。

便名においては末広がりの〝8888便〟とし、「天空の結婚式場行き」ということで、ハッピーなウエディングフライトの雰囲気を最大に盛り上げました。

機内装飾については安全運航のため制限がある中、できるだけ一般的な結婚式場や披露宴会場のような演出をしたいと思い考えついたのが、機内の通路を生かした〝レッドカーペット〟でした。通路の幅を測り、それに合う布を買ってきて手作りで用意しました。このレッドカーペットは地上でも活用し、華やかに見える一番結婚式らしい演出になったと思います。

ケーキ入刀も行いました。機内には、刃渡りが一定以上の刃物は持ち込みができないので、機内食で使われる小さめのナイフを用意。安全部に確認を行い、保安検査場を通して機内に持ち込みました。機内でケーキ入刀を行った事例を調べてみましたが見当たらないので、本邦初なのではないでしょうか。

司式役はクリスチャンの社員が務め、本物さながら。誓いの言葉、指輪の交換、そして誓いのキスも執り行いました。

そしてBGMなどは機内の設備を使うこともできますが、讃美歌は音出しのタイミングもあったのでラジカセを持ち込み、みんなで唱歌。

機長の滝浪さんから、せっかくの結婚式なのでゲストの皆さんに冬の日本の美しい景色を見ていただいては、と、名古屋を飛び立ち、福島県いわき市から新潟県の上空を旋回して戻るという、山も海も楽しめるコースを提案してもらいました。

冬の時期は空気も澄んでいるので、日本アルプスがとても美しい。それを見てもらいたいと思い提案しました。実際に飛び立つと、フライト中は機内が見えない。今どのような進行状況なのか分からなかったので、どのあたりをどのように飛ぶのかという兼ね合いが難しかったですね。

式の流れについて客室乗務員からの時折インフォメーションが入るものの、それぞれにどれくらい所要時間がかかるのか、どのような状況なのか全くイメージが付かなくて。結婚式場では、コーディネーターの人が走り回っている姿が見えるので、どのタイミングで何が行われるのか把握ができますよね。それが見えない中で、フライト中のどこで時間を作るのか、美しい景色をどのように見てもらうのか調整に苦労しました。これは、今後の課題かなと思います。

今回のウエディングフライトは、フライトタイムに対して希望されているサービス内容のボリュームがあったので、国際線の経験もあるベテラン客室乗務員4名で対応しました。

特に意識したのは、サービスにできるだけ時差を作らないことでした。小型機ではあっても、どうしても最初の方から最後の方まで5分の時差は出てしまいます。最初にお注ぎした人には乾杯まで待っていただくことになるので、普段よりも早いスピードでサーブしました。あとは、目立たないということに配慮しました。通常のフライトでは保安のため、客室の様子を伺う〝キャビンウォッチ〟を行うのですが、式の進行中に覗き込むと皆さん気が散られるので、それをやらないこと。しかし、クセでついつい覗いてしまいそうになっちゃって、大変でした。

アナウンスは、便名を「8888便」、行き先を「天空の結婚式場行き」で統一しました。また、乗務員同士の結婚式ではよくある余興で〝寿アナウンス〟というのがあるのですが、今回はエアライン関係者が多い結婚式だったので、安全・保安面以外の部分にその寿アナウンスをサプライズプレゼントとして入れさせていただきました。
「行き先は〝天空の結婚式場〟、飛行時間は永遠。目的地のお天気は快晴、気温はアツアツ、計測不能でございます。」

結婚式場ではよく耳にする〝寿アナウンス〟を機内で聞くというのは、初めてのことでした。

余興のためのアナウンスなので、離陸前に実際に機内でアナウンスしたのは、私も初めてでした。今回、いつもとは違ったアナウンスを行うことで、機体だけでなく、客室乗務員までもをチャーターできる、ということを体感していただけたのかなと思います。

また今回、準備までに1~2カ月と短い期間でしたが、もう少し時間があるとドリンクを提供するグラスなど、より結婚式にふさわしい、こだわったものを検討できたかなと思います。ドリンクメニューには日頃の機内サービスにはない、シャンパンやビールなどもあったので、それらに合うグラスを選んだり……。女性は意外と、そういう細かいところ見てますから。女性目線で細部にまで配慮していければ、飛行機がりっぱな結婚式場の一つとして選択肢に入れてもらえると思います。

今回の経験で、概ね試してみたかったことは全て成功し、かつ何が実現できて何が実現できないのか、各部署がある程度の知見を持てたと思います。ブライダル業や旅行業の方にもご参列いただいたのですが、当社の試みを、自分たちがこの式場をお客様にご案内できるかというプロの目線でご覧いただき、とても高い評価をいただきました。この先には、あくまでブライダル会社と旅行会社が提携され、用機者(航空会社と航空座席の貸し切り契約を締結する者)になっていただき、そちらの会社に申し込まれたお客様の結婚式のプロデュースに使用していただくことを考えています。我々はあくまで結婚式場(空と飛行機)であり、最高のフライトを提供する立場にいます。モチはモチ屋で、一般のお客様の晴れの舞台の演出でミスはできませんから。自分たちのプロ領域に徹します。機材確保の兼ね合いからもすぐにはパッケージプランのような商業ベースに乗せることはできないかもしれませんが、ゆくゆくは一般の皆様にも空の上の感動イベントを体験していただきたい。いつかそんな商品化ができるように話し合いを進めていきたいと思います。